日本発のグローバルフードカンパニーを目指すトリドール の人材育成に迫る
〜 カギは、若手社員への投資にあった 〜
今年 4 月、日本で圧倒的な人気を誇る丸亀製麺が台湾に 2 店舗オープンした。丸亀製麵の海外展開は、2011年のハワイへの出店を皮切りに、台湾の44店舗のほか、世界11の国と地域に計238店舗を突破。コロナによる経済ショックと戦いながら、世界で通用する日本発のグローバルフードカンパニーを目指しスピードを増して挑戦を続けるトリドールホールディングスのパワーの源に迫ります。
20年前に第1期の新卒として入社後数少ない現場からの叩き上げとして様々な部署を立ち上げ、プロジェクトのリーダーとして改革を行ってきた大下浩平・サステナブル推進室室長に、トリドールホールディングスの人材育成について聞いた。
さらに、人材の軸となる自律した個の育成に向けて、外部のプロメンターによる「社内メンター制度」に、抜擢された安永広和若干20歳。彼の強みと魅力はどこにあるのか。ミレニアル世代、Z世代の誰もが考える入社2年間の葛藤と、道を切り拓いたその思考に迫る。
左から、20歳で社内メンタリングプロジェクトに抜擢された安永裕和さん、社内メンタリングプロジェクトリーダーの大下航平さん。
大下浩平
1978年9月29日生まれ。兵庫県加古川市出身。
トリドールHDの第1期新卒として入社後、とりどーるの店長、労働組合の委員長、丸亀製麺の営業部長を経験。本社では、CSR推進室など数々の部署を立ち上げる。現在、トリドールHDサステナブル推進室室長。社内メンタープロジェクトのプロジェクトリーダーとして指揮を執る。
安永広和
2000年12月4日生まれ。鹿児島県奄美大島徳之島出身。
2019年にトリドールHDへ新卒入社、丸亀製麺配属。高卒ながらも翌年から3店舗の店長を任され、同年には国内最高売上を誇る羽田空港店の店長を最年少で任される。その後、弱冠20歳でトリドールHDサステナブル推進室に配属され、社内メンタープロジェクトのメンターとして抜擢される。
2020年に株式会社OVER20&Company.の提供するメンターワークアウトに参加。
目次
飲食業界のイメージを変革する
自律した個を輩出する、その軸に社内メンターの意図
メンターワークアウトのスキル内製化に至った背景とは
日本の将来を担う若手に、企業の社会的責任として投資をする
社内メンター成功のカギを握る二十歳のメンターとは
トリドールの目指すグローバルフードカンパニーとは
― 日本発のグローバルフードカンパニーを目指す中で、大切にしている「価値」は何でしょうか。
(大下)トリドールが目指すグローバルフードカンパニーとは、あらゆる国の文化や社会を尊重したお店づくりです。そして、世界で通用する日本発のグローバルフードカンパニーを目指す上で必要なものは何かと考えた時に、これは絶対に「人」でしか有りえません。
特に我々の事業は、「手づくり」「できたて」という強みに支えられているため、中心には常に「人」が必要であり、従業員一人一人の行動がお客様の喜びにつながる事業です。
だからこそ、一丁目一番地の戦略として「人」の成長を掲げています。
― どのような人材が必要でしょうか。
(大下)「自律した個」を育てあげることです。先ほど申し上げた通り、トリドールの強みを体現するものは全て「人」です。「人」をどう育てていくか、例えば、従業員のちょっとした行動の変化をどのように促すかという視点を意識しています。
グローバルフードカンパニーとして世界で戦っていくためには、現場で感じた違和感や課題に対し、スピード感をもって解決する行動が求められます。そのためには、本社の指示を待つのではなく、常に自分の頭で考え、自分の意志で行動できる自律した人材の集合体である必要があります。
― 企業として、自律した人材の集合体を体現する中で、働く従業員一人一人にはどのような視点が必要だとお考えでしょうか。
(大下)まず個々が自律した人材になるためには、大前提として従業員が「自己実現をもとに成長」している会社であることが求められます。そのため、一人一人の従業員が、自分のキャリアに向き合い、自己実現を軸に仕事に向き合うことが必要です。それぞれが会社の中で成し遂げたいことを明確にすることが企業としての成長にも繋がる、そんな姿を目指しています。
インタビューに応じるサステナビリティ推進室長でメンタープロジェクトリーダーの大下康平氏。
飲食業界のイメージを変革する
― 大下室長は、トリドールの中で今後どのような自己実現を叶えていくのでしょうか。
これまでトリドールの中で多くの自己実現を叶えてきました。その中でもずっと想い続けているものが、飲食業界が持つ社会的価値についてです。
私は20代の頃から外部会議や行政などに対応することが多く、その中で
痛感したことが、「俺ら全然アカン」という悔しい思いでした。
飲食業の内部統制や利益体質、社会への貢献度、持続可能な事業体制という視点で考えると「全然足りないな」と感じました。当然、外部からの評価も当時はかなり低いものでした。私が就職活動をしている時代は飲食業界自体のイメージが良くなく飲食店に就職することに親が反対することもある状態でした。
ところが私のような現場出身者からすると、外部のイメージと大きなギャップが存在しています。労働条件などは製造業などに比べると必ずしも良くないかもしれないですが、店舗に勤務する方はとても楽しく誇りをもって働いています。特にトリドールは、高卒の方も数年で店長になることもあり、その時点で20〜30人の部下を持つことになります。二十歳前後でこのような環境に身を置けることは非常に恵まれているのではないでしょうか。リーダーシップを身につけながら、かつ、店舗で実際にお客様と接することができ、業績にも影響を与えることができる、そのやりがいは非常に大きなものがあります。
私たちは、飲食事業に誇りを持っていますが、世間の評価は異なる。このギャップを埋めることが、この会社で私が叶えたいことです。
2019年12月に、粟田社長が日本経済新聞に掲載された当社の記事を読み、2020年4月に丸亀製麺19卒を対象にメンターワークアウトのプロジェクトが始動。その後2021年1月より社内メンターの養成研修がスタート。メンターワークアウト導入後、社内メンターチーム設置の決定まで実に1年弱。社内メンターチームを新設する意図について聞いた。
自律した個を輩出する、その軸に社内メンターの意図
― メンターワークアウトプロジェクトが始動したのはコロナ感染症が拡大するタイミングでしたが、コロナによる経済ショックが大きい飲食業界において、それでもプロジェクトが進行した理由について、お伺いしてもよろしいでしょうか。
(大下)コロナによる経済ショックが大きい中で、会社として何に投資をするべきなのか、非常に難しい状況でした。ただ、トリドールが目指す姿を考えたときに、やはり「人」の成長が軸にあることから、人材への投資を優先しました。企業の業績が低迷している際にコストカットされるものとして人材投資がありますが、当社は真逆です。人への投資は、トリドールが成長する上で不可欠です。そのため、当プロジェクトは自律した個の体現に向けて必要なものと判断し、始動に至りました。
― 一年間のメンターワークアウトプロジェクトを通じて、会社や従業員にはどのような変化がありましたか。
(大下)プロジェクトチームの私も含めた幹部全員が、20代社員一人一人が持つ可能性を認識しました。だからこそ、離職は数値以上に会社にとって大きな損失だと感じました。トリドールにはこれだけ多様な人材がいるという自信と、この一人一人の価値観や能力がこれからの企業成長に必ずつながるものだと改めて確信しました。
― 大下室長は実際にメンターワークアウトに参加した若手社員一人一人と、面談をされていますが、皆さんの変化はどのようなものでしたか。
(大下)開口一番「いやー、本当に、あの人(プロフェッショナルメンター)マジシャンみたいですね」と言われたのが、とても印象に残っています。自分自身のことを、どんどん引き出してくれる、そしてそれが本人さえ気づいていないインサイトで、「これ、やりたかった!」という潜在的なものをどんどん引き出されたと認識しています。
そして、メンターワークアウトの回を重ねるごとに、「転職したい」という迷いや「モヤモヤ」していた負の感情が、どこかへ行ってしまった、そのような感想もありました。
もう一つ印象に残っているのは、入社後ギャップを抱えたままモチベーション低く働いていた従業員たちの変化です。入社後ギャップはどの会社でも起こり得る問題です。入社前は期待を膨らませて、こんなことしたい、と考えていたことが、いざ入社するとイメージと異なり、聞いていた話と全然違うじゃないか、と。
今回のメンターワークアウト参加者の中にも、入社時に想像していたキャリアと違うということで、モチベーションが低下し転職を検討する従業員の方がいました。
メンターワークアウトのプログラム終了後に、当該従業員と面談した際に、「実は、このプログラムが始まるまでは、入社前にイメージしていたことを実現できないならこのまま辞めよう、と思ってた」と伝えられました。ただ、メンターワークアウトに参加するうちに「私が会社で本当にやりたいことが見えてきた!」と気づきがあったようです。
イメージと異なったことで「できない環境」に意識が向く状態から、本当にやりたいことを考えることを通じて「今ある環境を活用しよう」と、変化があったようです。
石堂とメンタープロジェクトリーダー、トリドールホールディングス株式会社コンサルティング統括担当の大下氏
メンターワークアウトのスキル内製化に至った背景とは
― まさに、トリドールは、一人一人の従業員の自己実現と企業成長をリンクさせる取組みをされていますが、今回当プロジェクトの成功を確信して社内メンターチームを設置し、メンターワークアウトのスキル内製に踏み切られています。その決断についてお聞かせください。
(大下)自律した個を体現する中で、従業員の自己実現を目指した教育を店舗にすべて任せることは、負担が大きいという課題がありました。店舗ではお客さまに喜んでいただくための施策を作りながら、企業としての利益も追求しなければならないからです。加えて、各人の価値観が多様化する現代において、自己実現の支援は、非常に専門性の高い職務です。そのため、教育的観点からも専門の部署を立ち上げることが良いと判断しました。
店舗の上司による目標管理と、社内メンターによる、セルフエスティーム(自己肯定感)を高めることで、自己実現できる従業員が増えていくと確信しました。
― この両輪が機能すれば、従業員満足度にも大きな影響があるのではないでしょうか。
従業員満足度向上も期待しています。従業員満足度が向上することで、お客様満足度の向上に繋がり、さらなるビジネスの成長に貢献するでしょう。そのため、人材への投資は経営戦略の一つと位置付けています。
日本の将来を担う若手に、企業の社会的責任として投資をする
― ミドル・シニア層への投資が増える日本企業の印象とは反対に今回、社内メンターの対象を20代にされています。どういった理由がありますでしょうか。
20代の可能性とチャレンジ意欲に投資する、という考え方です。
20代はこれから長い社会人人生が待っている中で、今起こる事象に対して当事者意識を持っています。私たちの世代は同じ事象に対して「あ、そうなんだ」程度の人も少なくないと思います。例えば環境問題一つを取っても、若い世代の方が、自分事として捉えて、行動している人が多いように感じています。彼らは日本の将来を担う世代なので、企業の社会的責任としても、若いメンバーに投資をする、と言うことは当然のことです。
― 今回、社内メンターチーム設置においてメンターに20歳の従業員を抜擢した理由を教えてください。
(大下)まず一つ目は、非連続的な成長に期待しているからです。
以前トリドールのプロジェクトで、飲食店開業のためのビジネススクールを期間限定でカンボジアのプノンペン大学内に作ったことがありました。カンボジアは平均年齢が20歳代です。現地初任給の3割程度の学費が必要でしたが、若い方を中心にすぐに定員に達しました。その際に、若者のまっすぐに夢に向かう姿勢、さらにそこで感じた非連続的な急成長を感じました。
アップルやフェイスブックの創業者も若いころに起業しています。志を持ち、アントレプレナー精神を持った方々こそ、当社のミッションや目指すべき先を考えた時に、非連続の成長をしていただける方ではないかと考えています。
これらの理由から、メンターという、新しい時代の職業には、若い方が向いているのではないか、と考えました。
二つ目は、非常に高い吸収力を持ち合わせているからです。私も、接する上で言葉に気をつけないといけないと思うほどに吸収力があると思います。今回抜擢した安永さんは、何でも自分の成長の糧として取り込めると期待しています。
左からメンタープロジェクトメンター安永氏、プロジェクトリーダー大下氏
社内メンター成功のカギを握る二十歳のメンターとは
― 今回、社内メンターのキーパーソンに抜擢された時の率直な感想を教えていただけますか。
(安永)抜擢された時は、正直とても不安でした。
「なんで20歳の私を選んでくださったのか」
「いろんな人がいるのに、何で私なんだろう?」
その際、メンターワークアウトで、メンターと一緒に考えた不安解消の方法を実践しました。「わからなかったら、聞いてみよう」です。
プロジェクトの話をいただいた当日に、大下さんに自分の感じる不安や疑問、考えを素直にぶつけました。その際のやり取りや、面談でも私のことをしっかり見てくださっていることを感じ、不安が自信に変わり、「やってやるぞ」という気持ちになりました。
安永宏和さんは、若干20歳で社内メンタリングプロジェクトの社内メンターに抜擢されました。
― 現在、メンター研修を受け始めて2ヶ月が経過しますが、プロジェクトの中でどんなことを感じていますでしょうか。
(安永)予想以上に広範に深く学ぶことに驚いています。
当初、ここまで学ぶことがあるとは思いませんでした。週に数時間、勉強すればよいと考えていたのですが、家庭教師のようにマンツーマンで、学習量も膨大です。メンター実技演習のフィードバックには、講師が三人ついてフィードバックをもらいます。店舗にいた頃は、ここまで一度に多くのフィードバックをもらうことはなかったので大変です。「常に見られているんだな…」と感じています。
課題に関しても毎週課され、くらいつくことに必死ですが、講義を終えるたびに思考に深みが出ているように感じます。そうなっている自分に対してもびっくりしています。
― メンターという仕事に関して、研修前後でその職に対するとらえ方はどのようにかわりましたか?
(安永)研修前とは異なりますが、メンタワークアウトを初めて受けるときは、悩みを聞いてくれたり、メンタルを整えてくれるといった「相談役」のイメージがありました。しかし、実際に受けてみると、自分自身の考えが整ったり将来設計やキャリア形成が明確になったりするなど、視野が広がりました。そして、無意識ですが、普段考えていなかったことを考えるようになりました。メンターワークアウトを受けることにより、私自身の考えが明確にはなりましたが、普段考えるようになったことは、メンターワークアウトは関係ないと思っておりました。しかし、実際に研修を受けてみると、「考えを明確にする」ことよりも「普段考えるようにする」ことがメンターとしての一つの目的であり、私自身が無意識にそうなっていたので驚きました。
「メンターが考えを明確にしてくれる」のような依存性のあるメンターの捉え方から、「自分で明確にできるようになる」というような、依存性のないメンターに捉え方が変わりました。
― 安永さんはかつては起業を目指されていたと伺いました。我々が多くの20代にメンターワークアウトを提供する中で「転職したい、起業したい」という話はよくあります。理由を聴くと、その多くが「この会社で得られるものは十分得たから、次のキャリアを考えている」、「なんとなくだけど起業したい」といったもの。安永さん自身、かつては起業を志しながらも現在は、会社の環境をうまく活用しようという考えに変化しているようです。どのように変化したのですか。
(安永)メンターワークアウトに参加して、自分のなりたい姿を明確にできたことが大きいと思います。
メンターワークアウトでは、仕事の相談だけではなく、将来について考えたり、目標実現のために何ができるか具体化していきました。その中で、様々な視点を得て、今まで見えていなかった将来が、少しずつ見えるようになりました。
その上で、上司とのコミュニケーション方法を変えたことが大きいです。私から連絡しなければ上司から連絡がくることは業務連絡を除いてないので、とにかく、私から連絡することを意識しました。そうすることで、私に興味を持ってもらい、次第に私の希望することを任せてくれるようになったと考えています。
―そんな安永さんが今、トリドールで叶えたいことは何ですか。
(安永)若い従業員が目立つ環境が少ない、と感じています。例えば、同期の誰が店長になっているか、どういう成果を上げているか、そういったことを私自身も多くは知りません。若い従業員が頑張っていることを、他の従業員全員で共有できる仕組みを作りたいです。
― 最後になりましたが、安永さんの考える20代の強みは何ですか?
(安永)20代の強みは、誰でも一度は持つ「若さ」だと思います。一般的に若さは知識も経験も不足していると捉えられる傾向にありますが、逆手に取ると、吸収力があり、柔軟性に長けているということになります。そしてなによりも、若いと何事にもチャレンジできることが強みです。年齢を重ねるたびに、新しいことにチャレンジすることが難しくなります。しかし、若いというだけで、シフトチェンジがしやすく、自分がやりたい道へ進みやすいと考えています。
そして、ある有名な若手心理学者の言葉で、「人生を決定づける重要な出来事の80%は35歳までに起こる」とあります。この言葉の中には、20歳から35歳までの生き方で、その先が大きく変わることを意味しています。20代の「若い」は強みになり、これから先の人生でとても重要になると思います。